私は柚子の木です。
ハイビスカスさん一家の庭の鉢に植えられています。
ここにやって来たのは、8年程前のことでしょうか。
元は関東のとある地、ハイビスカス家のご主人の生まれ育ったお家で、
ずっと根を下ろしてきました。
相当長い事…そうですね、ざっと40年は過ごしていたのかもしれません。
ある時ご主人がやって来て、私の枝を何本か切りました。
そうして、長い事ご主人と私は電車に乗り、
現在のハイビスカスさんファミリーのお家に辿り着きました。
ご主人は、私の枝何本かを鉢に植えました。
そうして、私の枝は数本程成長していきました。
しかし、ご主人は枝があまりにもか弱いため、心配してくれました。
虫にやられないように、立体的なカバーを作り外敵から守ってくれました。
そのカバーのお蔭で外敵から身を守ることは出来ましたが、
あまり上に上には伸びません。幹も枝も細いままでした。
そのような状態が数年続きました。
そしてある日のこと、
奥様が、何やら庭で鉢に枝を植えています。
どうやら、奥様もご実家から、
庭の枝木を切って持ち帰り、
ここのお庭の鉢で育てようとしているみたいです。
大切に植え替えお世話されているのを見て、
私もかつて、ご主人が私をそのように植えてくれたのを思い出し、
懐かしく、そして新しい木の枝さん達が、
少し羨ましくなりました。
ご主人と奥様が、新しい枝の事を話しながら、
話題は私のことに移りました。
私のことが話題に上るなんて本当に久しぶりです。
少し胸が躍りました。一体何を話しているのでしょう。
「この柚子の木が中々大きくならないのは、鉢が小さいためだ。
一回り大きい鉢に植え替えよう」
と、ご主人は言い、やがて間もなくその日がやって来ました。
私は掘り起こされ、新しく大きい鉢に植え替えられました。
土も新しくし、肥料も入れてもらえました。
ワクワクと嬉しくなりました。
そして、ご主人は言いました。
「これなら大きく立派に育つだろう。
これを機に、このカバーを外して伸びやかに育てよう」
そして、カバーが外されました。
カバーがないなんて、なんて伸びやかで晴れがましいのでしょう!
ちょうど春、若葉が育つ季節でした。
私は思いきり体を伸ばし、お日様を浴びて葉を育てていきました。
そして間もなく…やってきたのです。アゲハチョウが…。
よりによって、一番新しく柔らかい葉に卵を産み付けたのです。
どうする事も出来ません。
ご主人や奥様が気づいてくれたら…。
このまま卵から幼虫そして青虫になっていく。
葉っぱが食い尽くされたら、私はひとたまりもありません。
たまたま、近くにカラタチの木がありました。
カラタチには毎年アゲハチョウが卵を産み付け、
多くのチョウが育っていったのです。
奥様が毎年それを見るのを楽しみにしていました。
やがて今年もカラタチの木を見に来ました。
そして、何気なく横にいる私のことを見てハッとしました。
奥様はアゲハチョウの生態に詳しいです。
私の葉を裏返して、アゲハチョウの卵を発見してくれたのです。
奥様は、じっと見つめ考えていました。
少し迷い葛藤しているようでした。
そうです、奥様はアゲハチョウの成長を見るのが大好きなのです。
しかし、同時にこの私はご主人が大切にしている柚子の木なのです。
迷いながらためらいながら、卵をそっと弾き飛ばしてくれました。
私は葉をそよがせながら、拍手喝采の意を送りました。
『奥様ありがとう、お蔭で救われました』
しかし、どうしても完璧には見ることは難しかったようです。
即ち、奥様もある卵の存在を見落としていました。
その一匹は、どんどん育っていきました。
小さい幼虫なので隠れやすく、葉も大して食べないため、
奥様は気づきませんでした。
≪お願い、早く気づいて!≫
ついに青虫になりました。
そうして奥様は気づいたのです。
「アッ!」
という声をあげ、驚愕の目で青虫を見つめました。
奥様は明らかに動揺していました。
(なぜ青虫がここに、なぜ! どうしよう…)
奥様は逡巡していました。
私と青虫を交互に見ました。
奥様は言いました。
「柚子の木さん、青虫と共存してください。
葉っぱの数はおそらく足りるでしょう。
もしも喰いつくしそうになったら、その時は…」
私は察しました。全てを飲み込み引き受けました。
奥様を信頼して。
青虫は、毎日葉っぱをものすごい勢いでムシャムシャ食べていきました。
しかし奥様は毎日様子を見に来て、チェックしてくれました。
そして私に特別の魔法薬「メネデール」もかけてくれたのです。
この「メネデール」は、挿し木用の薬品でありながら、
元気のない植物にかけることによって、
葉をどんどん付けていくという作用もあるのです。
奥様は、
「挿し木を育てるために買った薬品だけれど、
柚子の木さん、あなたにも効き目があるみたいよ」
と言ってくれました。
奥様に、気にかけてもらえて涙が出そうでした。
それなら頑張って青虫の食欲にも耐えよう、
葉っぱをどんどん育てていけばいい、と思いました。
青虫はどんどん成長していきました。
そして、ある日のこと、私から離れていきました。
おそらく、どこかでさなぎになるのでしょう。
私の葉は生き残りました。耐えきりました。
奥様もその青虫のことを察したようです。
そして、
「青虫は成長して出ていったわ。
柚子の木さん、頑張ったわね、もう大丈夫よ」
そう言って、またメネデールを含んだ水をかけてもらいました。
そして有無を言わせない強い表情で、またカバーをかけてくれました。
「やっぱり、このカバーはまだ必要ね」
その後も、奥様は私を気にかけてくださいます。
ご自分が持ってきた挿し木さんの存在と同じくらいに。
私と挿し木さんを交互に見てくれ、メネデール入りの水をかけてくれる。
時々カバーを外してチェックしてくれています。
挿し木さんは中々根付くのが難しいらしく、
奥様は苦戦してあれこれ手を尽くしています。
一足先に根付き成長した私は、
挿し木さん達にささやきます。
「一緒に共に成長していきましょう」
あ、忘れていました。
挿し木さん達三人娘の名を。
梅、ビワ、ハナカイドウ です。
それぞれが、葉をつけ花や実を実らせられますように。
柚子の木と三人娘「共に!」 ( イメージ画像 生成AI作成 )

おまけ ♪ ここからはブログ主ことハイビスカスがお伝えします♪ 柚子の木が見守る「三人娘」たちのこと、
物語の最後に登場した、梅、ビワ、ハナカイドウの挿し木たち。
実は、今は誰もいなくなった私の実家から受け継いできた、
大切な思い出が詰まった木々なのね。
彼女たちが我が家にやってきた日のこと、
そしてなかなかうまく根付かない「不屈の精神」の奮闘記を、
過去の記事で綴ってみました~。
柚子の木が応援している三人娘のリアルな姿、
よろしければこちらの記事も覗いてみてくださいね!
(娘のお弁当やら朝ドラ感想なども、いろいろ書いています。笑)
ビワ・梅・ハナカイドウ。実家から受け継いでいく木々。
(実家での思い出と、挿し木を持ち帰ってきた日のエピソードです)
願いを込めた挿し木よ!我が家にうまく根付け!
(何度しおれても諦めない!我が家に根付かせるための奮闘記です)