あ、そうだ、娘のバレエレオタードに、ゼッケンを縫い付けなくては。
つい最近、レオタードがサイズアウトしたため、新しく購入したレオタード。
娘のバレエ教室は、レオタードにゼッケンを縫い付けることが必須である。
早速着手した。
一針一針、慎重に縫い進めていく。
縫いながらふと思った。
この作業は、一体何回目だろうか。
一番最初のレオタードにゼッケンをつけた頃を思い出す。
娘は小学校低学年で今のバレエ教室に移った。
それまでは、地元のバレエ教室で習っていた。
バレエには、全く縁もゆかりもない親子だったけれど、
敷居の高さを感じさせずに、受け入れてくれたバレエ教室、
バレエの楽しさを教えてくれたこの教室には、
今でも感謝の気持ちを持っている。
先生・クラスメイトに感謝と名残惜しさを込めながら
巣立つことができた。
娘は、バレエに必要な身体能力も意欲も十分あると判断し、
次の新しいステップとなるバレエ教室を探した。
相当探した。
ツテもコネも一切なかったので、自分の五感をフルに使って探した。
いくつか条件があったが、それに合致する場所が中々見つからなかった。
二年以上かかっただろうか。ようやくその条件に合う教室を見つけた。
早速、体験レッスンに参加してみた。
申し分のないレッスン、娘も気に入り、ここに入りたいと言った。
一つだけの難点、それは自宅から遠い事。
しかし、娘はそれでも通うと言ったので、開始した。
一番最初のレッスン、今でも覚えている。
バレエ教室から出てきた娘の顔は紅潮していた。
そして、私の顔を見るなり興奮して話し始めた。
どんなに素晴らしいレッスンだったか、
それはもう夢中になって、娘は尽きることなく話していた。
このバレエ教室に入った年、コロナ禍にも見舞われたが、
いろいろ制限がある中、それでも諦めることなく通い続けた。
ここから数年が、バレエに一番夢中になっていた時期だろう。
小学校4年生の時、ついに念願のトゥシューズが許された。
バレエショップに行き、トゥシューズフィッティングをした時は、
娘にとって最高に夢見る時間だったに違いない。
店を出た直後、娘はトゥシューズを抱きしめ、目を閉じながら言った。
「今までの人生の中で一番嬉しかったわ。
この事は一生忘れないわ」
私もこの言葉は一生忘れないだろう。
やがて高学年になると、娘の中学受験が現実味を帯びてきた。
バレエは一回でも辞めると、復帰するのが至難の業である。
しかも休んだ間のブランクは、そう簡単には取り戻せない。
受験のために休み、その後復帰出来なかったパターンが多いのだ。
だが、受験はいつかは必ずやって来る。
先送りにして高校受験と言う手もあった。
が、娘は高校受験より中学受験の方が向いているのは明らかだった。
そこで、某通信教育・中学受験コースの登場である。
中学受験コースは、もう既に小学校3年生から受けていたが、
塾に行かずに、この通信教育だけで行くことになった。
もちろん娘一人では無理だったので、パパ塾が登場した。
このパパ塾のお蔭で、娘はバレエを辞めることなく受験勉強が出来た。
バレエに行く電車の中で、頑張って勉強した日々であった。
そうして、念願の第一志望校に合格した。
受験期間一か月間だけ休んだバレエもすぐ復帰し、
さあこれからいよいよバレエにも専念できると思った。
しかし、事態は急展開する。
娘は中学入学後、ひとめぼれした部活に入った。
気持ちは一気に部活になだれ込み、バレエの優先度は著しく落ちた。
正直、解せなかった。理解に苦しんだ。
なぜ?
あれほど好きだったバレエは?と。
意欲をなくしかけていた娘と、少々衝突することがあった。
それでも、何とか続けていたある日、娘は言った。
「この発表会の後は、バレエのレッスンの回数を減らすわ。
勉強と部活でもうあまりバレエにかける時間が取れないから」
バレエのレッスン回数を減らす…。
正直ショックではあったが、薄々気づいていたので了承した。
いくら私が強要しようと、娘の気持ちがそうならば、
それは受け入れるべきだと。
思えば、娘は小学校高学年の頃から、時々言っていた。
「レッスンが難しくてついていくのが大変なんだ。
でも、頑張ってはいるけれど」と。
好きなだけではどうしようもない時期がきていた。
壁にぶち当たる、まさにそんな試練の時であった。
それでも、そんな思いをしていながらでも、小学校高学年の頃、
歯を食いしばって受験勉強とバレエを両立させてきた。
優先順位は落ちても、かつてのバレエが好きだった気持ち、
長年続けてきたバレエがしみ込んでいる体、
形がどうであれ、今後も細くても長く続けていけるなら、
それは娘の財産になるだろうと思った。
かつての勢い、レッスンペースは落ちてゆるやかになった。
学校関連の行事や体調を崩して、休むことも多々あるようになった。
しかし、娘の情熱は部活に注ぎ込まれ、日々の生活は生き生きとしている。
部活を中心とした生活、バレエはその周りの中の一つとなった。
そうしているうちに、娘は谷桃子バレエ団のYouTubeに夢中になった。
プロのダンサー達の厳しい現実、それでも夢を諦めずに頑張る姿、
娘は釘付けになって見ていた。
バレエを習ってきたからこそわかる、通じるものがあったのだろう。
そして現在、娘は自分なりのバレエの道を歩んでいる。
家で、気軽に踊ったり、
谷桃子バレエ団の踊りを見ながら、自分も振りをなぞって踊ってみたりする。
自分でも踊れるという喜びを感じるようになった。
そしてそれを、私にも伸びやかに見せるようになった。
今のバレエ教室で培ってきた、正統派の基礎。
長らく続けてきたキャリアは娘の中に息づいている。
レッスン回数は減っても、しかし、ゆるやかにでも上達を続けているのだ。
先日のバレエレッスン参観日の後、娘は私に聞いて来た。
「ママ、私にあのバレエ教室行かせて良かったと思う?」
「もちろんよ!あそこのバレエ教室は極上だわ」
そして私も娘に聞いてみた。
「娘も、あそこのバレエ教室行って良かったと思う?」
「もちろん!」
即答だった。
あ、良かった。本当に良かった。
その言葉が聞けただけでも、もう十分すぎるくらいだった。
色々な思いがこみ上げる。
一針一針縫いつけていくゼッケン。
映画「キルトに綴る愛」のように
かつての娘の情熱も、私の葛藤も、パパ塾の奮闘も、
様々な思いの断片を繋げていくように、一針一針と縫い合わせていく。
まだまだ娘のバレエは続いていく。
今年で10年目になる娘のバレエ歴。
一生物の財産として、
これからも豊かな芸術の世界を楽しんでおくれ、娘。
※ゼッケンを縫いながら思い出した、
私の好きな映画「キルトに綴る愛」
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